Second Step
Story > Chapter 2 > Section 5
後日。
経理課のドアを、静かに引く音がする。
音の先に、安堂の姿があった。
安堂は、苦い笑みをうかべながら経理課をあとにした。
安堂につづいて、田中も経理課を出ていった。
うだるような暑さのつづく、真本番の昼下がり。
綾子は、安堂の力になりたいとの思いで、田中に渡したのと同様のデシル表をつくっていた。
と言って、手にした資料を晴花の机の方へ這わせた。
3分後。
またまた3分後。
8月最終営業日。
経理課には、田中に突き付けられた営業対決の行方を気にするふたりがいる。
そのとき、社長が経理課にやってきた。
予想される今月の結果に若干の手ごたえを感じた社長も、朝方から成績の行方が気になるらしく、頻繁に経理課に足を運んでいた。
綾子の報告を聞いた社長は、小刻みにうなずきながら経理課を出て行った。
ハイタッチをかわすふたり。
綾子と晴花は、田中勝利の確信を強めた。
はめ込み窓の先に、外回りより帰社した石井の姿を認める綾子。
ふたりは石井が売上伝票を持ってこないことを心密かに祈る気持ちで、心臓がはち切れそうな緊張感に襲われた。
ふたりは待った。その時がこないことを祈った。
しばらく待ってはみたが、これといって動きはなかった。
最大の危機をひとまず乗り越えたふたりはそう確信した。
ここ数か月の、田中との齟齬に悩んだ労苦や 逆境と戦う田中を陰ながらサポートするため試行錯誤を重ねた労苦が、ここでやっと報われる気がした。
それからしばらく、ふたりは勝利の余韻にひたっていた。
形勢が整った以上、社長ももう降りてこないだろうとたかをくくっていたふたりは、それぞれの仕事の追い込みに入っていた。
しかしその時、ふいに経理課のドアを開けた人物が、いた。
社長だ。
社長は、一枚の売上伝票を二指で挟み持っている。
折り目やしわのない、ピンとした伝票であった。
社長は綾子にその伝票を手渡すと、満足げな表情を浮かべて上階へと戻っていった。
そして綾子はおそるおそる伝票へ視線を落とす。
綾子の様子に我知らず席を立ち、その背後に身を寄せた晴花は
……………………………………………天を、仰いだ。
最後の最後に届けられた伝票に、流麗なブルーインクの文字で記されていたのは、石井の名と20万円の売上であった。
Chapter2 Finished.