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AIはグラフを描ける。
でも、何を描くべきかは勝手には決められない

Garbage In, Garbage Outで考えるAI時代のデータ可視化

2026/7/10

AIに頼めば、グラフはすぐ作れる時代になった

AIやCopilotなどにデータを渡せば、グラフ作成そのものはかなり簡単になりました。表を貼り付けて「グラフにして」と頼むだけで、見た目の整った図や分析コメントが返ってくることもあります。

ただし、グラフは「作れればよい」ものではありません。大事なのは、そのグラフで何を見るのか、何を比較するのか、何を判断したいのかです。

AIはグラフを描けます。しかし、目的設定まで完全に肩代わりしてくれるわけではありません。この記事では、Garbage In, Garbage Outの考え方をAI時代のデータ可視化に当てはめて、作図を頼む前に人間が整理すべきことを見ていきます。

綾子がAIに丸投げする

綾子

AYAKO

AIに「このデータをグラフにして」って頼んだら、グラフ案と分析コメントが返ってきました。

晴花

HARUKA

それはそれで便利じゃん。AIが目的を推し量って可視化案まで出してくれたというわけだしさ。

綾子

AYAKO

えっ……目的って、AIが考えてくれるものじゃないんですか?

晴花

HARUKA

まぁ、候補は出してくれたわけだし...。でも、その目的で本当にいいかを決めるのは結局誰かな、という問題。

実験1:AIに「グラフにして」とだけ頼んでみる

次のような月別データがあるとします。売上、広告費、注文件数が並んでいるだけでも、確認したくなる観点は複数あります。

売上(万円) 広告費(万円) 注文件数
1月 120 20 48
2月 135 22 52
3月 128 18 49
4月 160 30 61
5月 172 35 66
6月 150 28 58

ROUGH PROMPT

このデータをグラフにしてください。

この指示に対して、AIは実際のグラフそのものではなく、グラフ案と分析コメントを返しました。これはAIが失敗したというより、曖昧な指示を「可視化案の提案」として解釈した例です。 目的が指定されていないと、AIはもっともありそうな目的を補完することがあります。

なお、AIツールや利用環境によっては、この場面で実際にグラフ画像やコードを生成する場合もあります。今回は、雑な指示をAIが「可視化案の提案」として解釈した例として扱います。

AI OUTPUT / 雑な指示に対するAIの回答例

視覚化グラフ

1. 売上と広告費の推移(複合グラフ)

時系列での変化を見るためのグラフです。左軸に「売上」、右軸に「広告費」をとることで、広告費の増減が売上にどう影響しているかが一目でわかります。

2. 広告費と注文件数の関係(散布図)

「広告費をかけると、どれくらい注文が増えるのか」という傾向(相関関係)を見るためのグラフです。右肩上がりのきれいな直線になっており、広告費と注文件数が強く比例していることがわかります。

データから見える簡易分析

広告の投資効果(ROI)が高い: 3月から5月にかけて広告費を増額(18万円→30万円→35万円)した際、売上・注文件数ともに大きく跳ね上がっています。

効率の良い月: 3月は広告費を18万円に抑えつつも、1月(広告費20万円)以上の売上と注文件数を獲得しており、効率の良い月だったと言えます。

実験1のチェック:AI回答のどこを見るべきか

このAI回答は、全体としてはかなり気が利いています。単に「グラフにしてください」と頼まれただけなのに、複合グラフ、散布図、ROI、効率の良い月まで広げて考えています。 問題は、AIが間違っていることではなく、もっともらしい表現がそのまま正しいとは限らないことです。

AIは何を勝手に補ったのか

今回の回答では、こちらが指定していない観点をAIが補っています。

AIが補った観点 確認したいこと
売上と広告費の推移を見る 時系列として見たいのか、広告費との関係を見たいのかを分ける
広告費と注文件数の関係を見る 相関らしさを見るだけなのか、広告効果を判断したいのかを確認する
ROIという観点で評価する ROIを言えるだけの利益・費用・増分効果のデータがあるかを確認する
効率の良い月を探す 何を何で割った効率なのかを定義する
晴花

HARUKA

AIは、曖昧な指示に対して「それらしい分析目的」を補ってくれる傾向があるね。これは便利だと思うんだけど、その目的が本当にこちら側の目的と一致しているとは限らないんだなぁ。

「強く比例している」と言い切ってよいか

綾子

AYAKO

えと、広告費と注文件数が強く比例している、って書いてありますね。

晴花

HARUKA

たしかにこの6点だけを見るとそう見えるかも。ただし、6か月分だけで「強く比例」と言い切るのはちょっと強い表現かもよ。

散布図で傾向が見えることと、十分に検証された関係があることは別です。月別データには、季節要因、キャンペーン、商品構成、価格変更などが影響している可能性があります。 この段階では「関係がありそう」くらいに留めた方が安全な場合があります。相関が見えても、因果とは限りません。

もう一つ、見過ごしやすい点があります。日常語としては「比例」と言いたくなる場面ですが、データ分析の文脈では「相関がありそう」と「比例している」は分けて考えた方が安全です。

「比例」という言葉は、本来、広告費が0なら注文件数も0になるような、原点を通る関係を指します。 このデータで回帰直線を引くと、広告費が0のときの注文件数はおよそ28件と推定され、原点を通りません。 つまり「相関が強い」ことと「比例している」ことは、数学的には別の主張となります。サンプルサイズが十分にあったとしても、直線が原点を通らない限り「比例」とは区別する必要があります。

晴花

HARUKA

「比例」って言葉、何の気なしに使いがちだけれど、数学的には結構はっきりした意味があるから場合によっては注意が要るね。今回の文脈では「関係がありそう」と「比例している」は、「混ぜると危険」で間違いなし。

「ROIが高い」と言うには材料が足りるか

売上が増えていること ≠ ROIが高いこと

ROIは、投資に対してどれだけ利益が得られたかを見る考え方です。たとえばROIを「利益 ÷ 投資額」で見るなら、売上だけではなく利益が必要になります。 この表にあるのは、売上・広告費・注文件数です。利益はありません。 そのため「広告の投資効果(ROI)が高い」と断定するには材料が足りません。言うなら「広告費を増やした月に売上と注文件数も増えている」程度が安全です。

「効率の良い月」とは何の効率か

晴花

HARUKA

「効率が良い」という言葉を使うなら、何を何で割った効率なのかをはっきりさせる必要があるね。

たとえば、売上 ÷ 広告費、注文件数 ÷ 広告費、利益 ÷ 広告費では、見ている効率が違います。どれを効率と呼ぶかで判断も変わります。 AIの説明は方向性としては理解できますが、言葉の定義が曖昧です。

綾子

AYAKO

AIの回答、かなり親切に見えたんですけど、そのまま無思慮に資料に貼るにはちょっと度胸が必要ですね。

晴花

HARUKA

AIは候補を出せる。でも、目的に合っているか、言いすぎていないか、必要なデータが足りているかを確認するのは、私たちの仕事。もっとも、どんなツッコミにも負けない鋼のココロがあれば別だけどね(笑)

Garbage In, Garbage OutをAI時代に考える

Garbage In, Garbage Outとは、入力が悪ければ出力も悪くなる、という考え方です。データ分析やシステム処理では昔から使われてきた言葉ですが、AI時代のグラフ作成でも同じことが起きます。

ただしAIの場合、雑な入力でも見た目のよい出力が返ることがあります。折れ線、棒グラフ、色付きのラベル、もっともらしいコメント。見た目が整っているぶん、問題が見えにくくなります。

つまり「ゴミのような入力から、ゴミに見えない出力が返ってくる」ことがあるのです。

AI時代の怖さは、雑な入力からでも、見た目だけは整った出力が返ってくること。

実験2:目的を指定して頼む

では、AIをもっと正しく使うにはどうすればよいのでしょうか。ポイントは、最初から完璧なグラフを求めることではなく、何を見たいのかを言葉にしてから頼むことです。

同じデータでも、目的を先に言葉にすると、AIに頼む内容はかなり変わります。

TREND

推移を見たい場合

PROMPT

月別売上の推移が分かるように、売上を折れ線グラフにしてください。
増減が目立つ月があれば、簡単にコメントしてください。
  • 月の順序に意味がある
  • 時系列の変化を見るなら折れ線グラフが候補になる
  • 売上が増えているか、途中で下がっているかを確認しやすい

RELATIONSHIP

広告費との関係を見たい場合

PROMPT

売上と広告費の関係を見たいです。
広告費が増えた月ほど売上も増えているか確認できるグラフを提案してください。
  • 推移ではなく関係を見たい
  • 散布図などが候補になる
  • ただし相関があっても因果とは限らない

COMPOSITION

商品別構成比を見たい場合

商品 売上
A 120
B 80
C 40
D 20

PROMPT

商品別売上の構成比を見たいです。
全体に対してどの商品がどれくらい占めているか分かるグラフを作ってください。
  • 構成比を見たいなら円グラフや帯グラフが候補になる
  • 項目数が多い場合は棒グラフの方が読みやすいこともある
  • 何を比較するかによって適切なグラフは変わる

AIに渡すべき情報のチェックリスト

確認項目
何を見たいか 推移、比較、構成比、関係、分布
何を比較したいか 月別、商品別、地域別、前年同月比
誰に見せるか 自分用、会議用、初心者向け、専門家向け
何を判断したいか 増加傾向、差の大きさ、異常値、改善効果
注意したい点 外れ値、欠損値、単位、割合と実数の違い
AIの解釈は言い過ぎていないか 「強く比例」「ROIが高い」「効率が良い」などの断定表現が、データの量・強さに見合っているか

AIに「目的整理」から頼むプロンプト

目的が自分でも曖昧な場合、いきなりグラフを作らせるより、AIに候補を整理させる方が有効です。「何を見たいのか分からない」こと自体をAIに相談してかまいません。次のように頼むと、候補と注意点を整理しやすくなります。

PROMPT

このデータを可視化したいです。
いきなりグラフを作るのではなく、まず次の観点で整理してください。

1. このデータから見られること
2. 目的別に候補になるグラフ
3. それぞれのグラフで分かること
4. 誤解しやすい点
5. 最初に作るべきおすすめのグラフ
晴花

HARUKA

AIは作図係にも相談相手にもなれる。ただし、最終的にどの目的を採用するかは人間が決めないと。判断責任まではAIに引き受けてもらえないしね。

結論:AIを使うほど、人間側の問いが大事になる

AIはグラフを描けます。さらに、目的が曖昧なときには、AI側で目的を補完して可視化案や分析コメントを返してくれることもあります。

しかし、補完された目的や分析コメントが妥当とは限りません。特に「強く比例」「ROIが高い」「効率が良い」のような表現は、データや定義を確認する必要があります。

AI時代ほど、人間には「何を見たいのか」と「その解釈は言いすぎではないか」を確認する力が必要になります。

綾子

AYAKO

AIの答えを疑うというより、実務で使えるかたちに改善していく、という感じですね。

晴花

HARUKA

そうだね。AIが出した答えを疑うことは、AIを否定することとは違うしね。AIを実務で使うためには、確認作業も必要だよ、という当たり前の話。

AIにグラフを描かせる時代だからこそ、人間には「何を見たいのか」を言葉にする力が必要。

綾子